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ヤシの木の街の月曜夜、久保のいないソシエダに10人で逆転される

エルチェ対レアル・ソシエダ。0-2から追いつき、退場者を出しながら89分に勝ち越し。久保建英は90分ベンチだった。小さな街がラ・リーガにいるという名誉と、久保が置かれている逆境の話。

写真は近日追加
ラ・リーガ EA SPORTS ・ 第4節2026-09-07 21:30
エルチェCF
2 – 3
レアル・ソシエダ
スタジアム
エスタディオ・マヌエル・マルティネス・バレロ(エルチェ、スペイン)
観客数
25,562人
熱狂度
★★★☆☆

バレンシアから南へ170km

前日、メスタージャでバルサの0-5を観た翌日、月曜の夜。バレンシアから南へ170kmほど下って、エルチェへ。アリカンテの20km南西にある、人口約24万5千人の街だ。

月曜21時30分キックオフ。日本にいた頃なら考えられない時間だが、スペインでは普通のことで、夏は日が沈む21時過ぎからが本番になる。

バレンシアからエルチェへは、車で2時間ほど。海沿いを南下して、アリカンテを過ぎたあたりから、道の両側にヤシの木が増えてくる。街に着く前に「ヤシの街に来た」と分かる。

宿はエルチェではなく、隣のアリカンテのNHホテルに取った。チェックインしようとしたら、ホテルの前に見慣れない大型バスが停まっている。青と白のストライプ。まさかと思ったら、レアル・ソシエダのチームバスだった。ロビーにはジャージ姿の選手たちが普通に歩いていて、翌日に対戦する相手のチームと、同じホテルに泊まることになった。ヨーロッパでは、こういうことが本当に起きる。ホテルの予約サイトで一番条件の良いホテルを選んだら、ラ・リーガのクラブも同じ判断をしていたというだけの話だ。

チケットは、公式サイトの一般販売が終わっていたので、Hellotickets という転売プラットフォームで買った。「プレフェレンシア・デスクビエルタ」(屋根なしのサイドスタンド)で258ユーロ。8月28日の「大人買いの夜」の一枚だ。正直、この試合に258ユーロは高い。公式で買えば25ユーロ前後の席だ。ただ、チケットが届いたのは試合の4日前で、それまでは「本当に来るのか」と少し不安だった。届いたあとは、そういうことは忘れる。

1976年開場、ハンガリーが10点取った場所

エスタディオ・マヌエル・マルティネス・バレロは1976年9月8日に「ヌエボ・エスタディオ」として開場した。こけら落としはエルチェ対メキシコ代表で、3-3。1988年に、元会長の名前が冠された。

このスタジアムには、ワールドカップ史に残る記録がある。1982年6月15日、ハンガリー対エルサルバドル、10-1。ワールドカップ最多得点差タイ記録は、いまもこのピッチで生まれたものだ。1982年大会ではベルギー対エルサルバドル、ベルギー対ハンガリーもここで行われた。

2003年には国王杯の決勝(レクレアティーボ対マジョルカ、0-3)も開催している。スペイン代表はここで7試合戦って全勝。2018年9月のクロアチア戦は6-0だった。

現在の公式収容人数は31,388人。2013〜14年に大改修を行い、その際に約1,000席を減らして快適性と安全性を上げた。2022〜23年にも大型ビジョン、ベンチ、ロッカールーム、座席を刷新している。UEFAの4つ星スタジアムで、2013-14シーズンにはラ・リーガの最優秀スタジアムに選ばれた。

【写真:スタジアム外観/夜のスタンド】

緑のストライプの理由

エルチェCFの愛称は「ロス・フランヒベルデス(緑の縞)」。白いシャツに緑の縦縞。この緑は、街を囲むヤシ園から来ている。1926-27シーズンに採用された。

エルチェは2025年の夏、2部で2位に入って1部に戻ってきた。昇格を決めたのはデポルティーボとのアウェイ戦、0-4。6月2日にスタジアムで昇格の祝賀会が開かれた。

サポーターの応援席は南ゴール裏の「グラーダ・デ・アニマシオン・フォンド・スル1923」。クラブが「非政治的」と明記して運営している応援席で、どのファンでも参加できる。

2026-27シーズン、エルチェは苦戦している。この試合の時点で4試合で勝ち点1。

試合:2点差をひっくり返して、10人のソシエダが勝った

相手はレアル・ソシエダ。久保建英のいるクラブだ。

11分、ソシエダのジョブ・オチエンが先制。31分、ヤンヘル・エレーラで0-2。ソシエダが試合を完全に握っていた。

後半、流れが変わる。61分頃にソシエダのルカ・スチッチのゴールがVARで取り消され、その直後の64分、途中出場したばかりのジョン・マルティンが一発退場。58分に入って6分で退場という、本人にはつらい展開だった。

数的優位になったエルチェは、67分にトマ・レマル、74分にフェル・ニーニョが決めて2-2。マルティネス・バレロが沸いた。この日一番の瞬間だった。

2-2になった瞬間、僕の後ろの列の男性が、僕の両肩を後ろからつかんで揺さぶった。振り返ると、知らない人だ。エルチェの緑と白の縦縞を着て、涙ぐんでいる。「エルチェの歴史を知ってるか」と言われた。知らない、と答えると、「1982年のワールドカップで、ここでハンガリーがエルサルバドルから10点取った。エルチェは1部と2部と3部を行ったり来たりしてる。でも俺たちはずっとここにいる」と言った。ゴールの話ではなかった。

ヤシの木の街の、人口24万人のクラブ。ビッグクラブではない。でもこの人にとって、エルチェは「自分の街の名前」であって、それが1部でソシエダに追いついたという事実は、自分の街が追いついたということなのだ。

ところが89分、スチッチ。ラ・リーガの公式記録では89分11秒。10人のソシエダが勝ち越し、そのまま2-3で終わった。

エルチェの公式サイトは各得点を1分早く記録しているが(66分、73分、89分)、リーグの公式データに合わせて書いておく。

主審はミゲル・アンヘル・オルティス・アリアス。監督はエルチェがマルティン・アンセルミ、ソシエダがペッレグリーノ・マタラッツォ。

25,562人の「惜しかった」

観客は25,562人。収容の8割ほど。月曜の夜にこれだけ入るのは、昇格1年目の熱がまだ残っているからだと思う。

人口24万人の街が、ラ・リーガにいる。これがどれだけ名誉なことか、スタジアムに着いて分かった。あんな小さな街なのに、スタジアムは新しくて立派で、手入れが行き届いている。バレンシアのメスタージャは100年の重みで人を圧倒するけれど、マルティネス・バレロは「うちの街もここにいるんだ」という誇りで人を迎える。レアルもバルサもアトレティコも、年に1回はこのヤシの木の街に来なければならない。そのために街全体が、月曜の夜に集まっている。

ソシエダが1人少なくなってからのスタジアムは、明らかに「いける」という空気になった。同点になったとき、ゴール裏のフォンド・スルから聞こえた声は、僕がこの夏に聴いた中でも大きい部類だった。

ただ、最後にやられた。勝ち点1が勝ち点0になった瞬間、スタジアムから出た音は、歓声でも罵声でもなく、ため息だった。数万人分のため息は、それはそれで迫力がある。

久保建英の逆境

久保建英は、この日、90分間ベンチに座ったままだった。今季初めてのことだ。

これは残念だった。日本人選手をスペインのスタジアムで観る、というのを楽しみにしてバレンシアから2時間走ってきたので、スタメン発表で名前がなかったときは、正直がっかりした。

事情を少し書いておく。久保は6月のワールドカップ初戦、オランダ戦で左膝を痛めて、約2か月離脱した。8月9日のプレシーズンで復帰して、開幕からベティス戦、レアル・マドリード戦、セルタ戦と先発はしていたが、いずれも60〜70分で交代。エルチェ戦の前日、マタラッツォ監督は会見で「今週タケとお茶をした。彼はいま最高のレベルにない。それでも私は信じている」と言った。翌日、久保はベンチだった。代わりに出たオチエンが1ゴール2アシスト。

その後も、アトレティコ戦は途中18分、ヨーロッパリーグのボーンマス戦は途中7分、9月20日のバレンシア戦はまたベンチのまま。4試合連続で先発を外れて、9月22日に代表に合流したときの本人のコメントは、「正直こればかりはどうしようもないので、僕はやれることをやるだけかなと思ってます」だった。膝は「僕が思ってたよりは長かった」けれど、もう問題ないという。

2024年に2029年まで契約を延長して、違約金は6,000万ユーロ。この夏は「加入以来もっとも静かな夏」で、オファーは出なかった。25歳、契約はあと3年、移籍先はなく、監督には「最高のレベルにない」と言われている。逆境という言葉が、これほど当てはまる状況もない。

ただ、試合が始まって10分もすると、そのことは忘れていた。スタジアムには、久保がいてもいなくても、エルチェの人たちの90分がある。僕は「久保を観に来た」つもりだったけれど、実際に持ち帰ったのは、後ろの列の男性の手の力だった。

ヤシの木、20万本

エルチェを歩くと、どこにでもヤシの木がある。「エルチェのパルメラル(ヤシ園)」は2000年にユネスコの世界遺産に登録された。市内に97の果樹園、約7万本のヤシ。周辺を含めると約20万本で、ヨーロッパ大陸最大のヤシ園だ。

もう一つ、8月14日と15日にはサンタ・マリア聖堂で「エルチェの神秘劇(ミステリ・ダルシュ)」が上演される。中世から続く宗教劇で、2001年にユネスコの無形文化遺産に宣言されている。

そして「エルチェの貴婦人」。1897年8月4日にラ・アルクディアで発見された紀元前4世紀のイベリア人の彫像。本物は1971年からマドリードの国立考古学博物館にある。

靴の街でもある。スペインで生産される靴の約4割がエルチェ産で、工場は1,000以上。

旅のメモ

  • チケット:公式サイト(entradas.elchecf.es)で一般販売。シーズンチケット保有者が24時間先行。試合当日は南北ゴール裏の窓口が2時間前に開く(残席がある場合)。過去の例では、ゴール裏15ユーロ、プレフェレンシア25ユーロ、トリブナ40ユーロ程度。ビッグクラブ戦は高くなる。
  • アクセス:セルカニアスC-1(アリカンテ〜ムルシア)でエルチェ・パルケ駅かエルチェ・カルース駅。スタジアムまでは徒歩かバス。
  • 食:名物は「アロス・コン・コストラ」(卵で覆って焼いた米料理)と、パルメラルの生のデーツ。